フラット化する世界(上)

フラット化する世界(上)

フラット化する世界(上)

この本は,上下巻の2冊から成る本の上巻です。

Windows Vistaの開発では,アメリカで設計/実装し,インドでテストする,という形でワールドワイドな開発がされたそうです。このように,インターネットの普及によって世界がフラット化している,という現象を解説し,我々先進国は今後どのように生き残ればよいか,みたいな内容です。

上巻では主に,上記のようなフラット化の事例と,10個のフラット化の要因が挙げられ,最後にアメリカはこれからどうすべきか,についてちょっとだけ書かれています(下巻を買わせるために,ちょっとだけ触れているのか)。フラット化の要因の説明が8割ぐらい占められています。

というわけで,フラット化現象についてある程度肌で感じている人にとっては,上巻は必ずしも読む必要がないかもしれません。

フラット化の事例としては例えば以下のようなものが挙げられています:

上記のうち,ユタ州の主婦による予約受付では,予約したい顧客視点で考えたとき,相手がインド人ではなく愛想の良いおばちゃん,という要素により,予約獲得率が30%ほどインド人より高いという効果があるそうです。

マクド東京弁で言うとマック)のドライブスルーの事例が面白かったです。ドライブスルーで注文すると,数百キロ離れたコールセンターで注文を受付後,厨房に対し客の画像付きで注文を送付するそうです。これによって間違いが激減したとか。

次に,フラット化の要因としては例えば以下のようなものが挙げられています:

  • ベルリンの壁崩壊
  • インターネットの普及
  • 共同作業を可能にしたソフトウェア
  • アップローディング
  • 中国のWTO加盟


フラット化の要因については,コンピュータ業界に居る身としては結構馴染みのあるものが多く,初めて知るようなものはあまりありませんでした。

最後に,このような状況下,アメリカはどうするべきか,が書かれています。フラット化を促進させることで,アメリカ本国から単純作業が全てアウトソーシングされてしまい,本国の雇用が減るのでは,という意見に対し,反論しています。逆に雇用は増えるはずだと。
その理由としては,単純作業にかけていた時間をより高度な事に費やせるようになるから,という感じ。ただ条件として,怠けずにイノベーションを継続し,後進国に追いつかれないように努力を続ける限り。

やっぱりぼーっとしてたらインド/中国に負けてしまうから,努力あるのみですね。

フラット化する世界(下)

フラット化する世界(下)

フラット化する世界(下)

この本は,上下巻の2冊から成る本の下巻です。

上巻の最後の方で,怠けずにイノベーションを継続し,後進国に追いつかれないように努力を続ける限り,我々は発展しつづけることができる,と述べられています。

下巻では,まずアメリカは努力を続けているか?という検証をしています。結論はNoで,アメリカにおける教育問題について述べられています。ブッシュ政権は教育に対する予算を削減していると同時に,初等教育のレベル低下を指摘しています。

下巻で面白いのはこの後で,発展途上国アラブ諸国がフラット化された世界の人々とおなじ土俵に上がる(ネットワークに容易にアクセスできる)ための政策について述べられています。そして,是非彼らも同じ土俵に上がってほしい,と訴えています。その理由は?現在の彼らは,今日を生きることに精一杯で,イノベーションのために頭を使うことができないが,ネットワークに容易にアクセスできるようになれば,生活レベルが向上するチャンスが生まれ,彼らもイノベーションできる。そうすれば,イノベーションに努力する人間の絶対数が劇的に増加し,さまざまな問題(地球温暖化等)を解決できる!と述べられています。

もちろん,彼らの生活レベルが向上すると,二酸化炭素の排出量は激増してしまうためイノベーションが不可欠です。彼らが同じ土俵に上がるか,イノベーションが先か?というジレンマが発生したりして。

地球温暖化問題を解決するイノベーションを我々が既に確立してから,彼らが同じ土俵に上がるのが一番良いのかも。

下巻では,アルカイダによる9.11によって,フラット化が後退する懸念も述べられていて,同感です。先日も新聞で読んだんですが,9.11をきっかけに米国による情報規制が強化され,ひょっとすると様々な学会の論文が公開されなくなるかもしれません。こうなってくると,まさにフラット化の逆方向です。

我々は努力を惜しまずイノベーションを続けるとともに,お互いに信頼できる世界を築く必要がありますね。